つれづれ
翻訳劇で「京都議定書」を再認識しよう!
反環境ロビイストからトランプへ――“悪役“の系譜に警戒を
地球温暖化問題で初めて具体的な取り組みが合意された「京都議定書」採択の舞台裏をユーモアたっぷりに描いた翻訳劇「KYOTO」が、東京・下北沢のザ・スズナリで上演中だ(2025年7月13日まで)。参加200カ国の利害と思惑が入り乱れる中、合意を妨げようとする“悪役”の石油業界ロビイストが舞台回しを展開するーー。
「KYOTO」の舞台は、1997年12月に京都市で開催された気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)。国際会議そのものを描いた劇として演劇の本場・英国で大評判となり、それを知った劇団「燐光群(りんこうぐん)」主宰者で演出家の坂手洋二氏が翻訳上演権を取得した。
劇の冒頭に登場するのは石油業界の米国人ロビイスト(弁護士)のドン・パールマン。温暖化防止の合意がなされないよう、最大の排出国アメリカ代表と連携し、産油国サウジアラビアに指示を与え、経済成長を最優先する中国をそそのかす。温暖化を検証した科学者に事実無根の誹謗中傷をあびせることもいとわない。それでも太平洋の島国キリバスは「温暖化で国が沈みつつある」と訴え、イギリスやドイツも規制の必要性を理解する。ゴア米副大統領、メルケル独首相らも登場するが、規制に否定的なアメリカ議会の動き、排出量取引を認めるかどうかなど対立が続き、ついに会議は時間切れとなり通訳たちも姿を消す。勝ち誇るドン・パールマン。それでも議長が驚異的な粘り腰を見せて“つぎはぎ妥協”することで京都議定書をなんとか成立させた。「なぜだ!」と怒り、落胆するドン・パールマン、失意のうちに死を迎える。
先進国のみ規制した京都議定書は2005年に発効したが、その後、すべての国を対象としたパリ協定(COP21、2015年)にとって代わられた。ドン・パールマンは架空の人物だが、その“悪霊“がよみがえったかのようにトランプ大統領はパリ協定を離脱してしまった。
この翻訳劇が上演されるには、COP3に研究者として参加した明日香壽川(あすかじゅせん)・東北大特任教授の働きかけが大きい。「燐光群」の坂手氏は「僕も含め、日本人がまだ知らないことがたくさんあって、この芝居を通じて新たに知ったことも多くあるので、ぜひこの機会にCOPのことをもっと知ってもらいたい。まずは難しい劇という先入観を持たずに劇場に足を運んでもらいたい」とインタビューで話している。
今月20日に投開票される参議院選挙。現金給付か消費税減税か、年金と社会保障のあり方、裏金問題などが論じられているが、地球環境問題はほとんど埋もれてしまっているのではないだろうか。「KYOTO」のそしてパリの思いを忘れてはならない。
